【DECCA SXL ラベル変遷】ED1〜ED4を30秒で見抜く「文字・幅・溝」の物理的鑑定ガイド
「このSXL 2000番台、4万円もするが本当に初版(ED1)だろうか?」
中古レコード店の棚の前で、値札と盤面を交互に見つめながら、スマホで必死に検索を繰り返している……そんな状況にお困りではありませんか。特にDECCAのSXLシリーズは、ラベル一枚の違いで価値が数倍、時には十倍以上も変わるため、失敗したくないというプレッシャーは相当なものでしょう。
ネット上には断片的な情報が溢れていますが、実はDECCAのラベル変遷は、当時の製造現場の「物理的な変化」を知れば、驚くほどシンプルに判別できます。本記事では、元エンジニアの視点から、スマホ片手に30秒で真贋を見抜くための「文字・幅・溝」の3ステップ鑑定術を伝授します。この記事を読み終える頃には、店主の言葉を鵜呑みにするのではなく、自らの鑑定眼で納得の1枚を選び抜けるようになっているはずです。
なぜ「カタログ番号」だけで判断すると失敗するのか?
「SXL 2000番台だから、これは1950年代後半の初版に違いない」――もしそう考えているとしたら、それは非常に危険な「落とし穴」です。
エンジニアの視点で見れば、レコード製造は継続的なプロセスです。DECCAは、特定の録音が売れ続ける限り、同じカタログ番号(例:SXL 2112)を使い回しながら、何年にもわたって追加プレスを行いました。その際、ラベルのデザインは「その時、工場で使われていた最新のもの」に更新されていきます。
つまり、「カタログ番号は古いが、プレス(ラベル)は新しい」という再発盤が大量に存在するのです。例えば、1959年に発売されたタイトルであっても、1975年にプレスされたものは、デザインが簡略化された「Narrow Band(ナローバンド)」ラベルになっています。これを初版(ED1)の価格で購入してしまうことこそ、コレクターが最も避けるべき事態です。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: カタログ番号はあくまで「作品名」であり、プレスの時期を証明するものではないと心得てください。
なぜなら、DECCAは在庫管理の効率化のため、古い番号のまま新しいデザインのラベルでプレスを続ける「トランジション(過渡期)」を意図的に作っていたからです。鑑定の際は、番号よりも先に「ラベルの物理的特徴」に目を向けるのが鉄則です。
30秒鑑定マトリックス:文字・幅・溝の「三点観測」
店頭の限られた時間で、迷わずエディションを特定するために、私が提唱しているのが「三点観測」メソッドです。「帯の幅」「10時方向の文字」「溝の有無」の3つを確認するだけで、ED1からED4までの判定が完了します。
- 第一関門:帯の幅(Wide Band か Narrow Band か)
ラベル中央を横切る銀色の帯に注目してください。この帯が太ければ「Wide Band(ワイドバンド)」、細ければ「Narrow Band(ナローバンド)」です。ナローバンドであれば、その時点で1970年以降の再発盤(ED4以降)であることが確定します。 - 第二関門:10時方向の文字(Original Recording か Made in England か)
ワイドバンドだった場合、ラベルの左上(10時方向)にある小さな文字を読んでください。ここに “ORIGINAL RECORDING BY” と刻まれていれば、最高価値の ED1 である可能性が極めて高まります。一方、”MADE IN ENGLAND BY” であれば、ED2またはED3です。 - 第三関門:溝의 有無(Groove か Flat か)
最後に、ラベルの端から約1cm内側に、円形の「溝(Groove)」があるかを確認してください。これは当時のプレスマシンの構造上、1968年以前の盤にしか存在しません。光を斜めに当てると、レコード盤の溝とは明らかに異なる、ラベル紙の下にある深い段差が見えるはずです。「MADE IN ENGLAND」表記で「溝」があれば ED2、なければ ED3 と判定できます。
各エディションの詳細解説:エンジニアが注目すべき「物理的証拠」
各エディションの違いは、単なるデザイン変更ではなく、製造現場の変遷を反映しています。それぞれの特徴を深く理解することで、鑑定の精度はさらに高まります。
ED1 (1958-1965): 黄金の初版
最大の特徴は、前述の “ORIGINAL RECORDING BY” 表記です。これはDECCAが自社の録音技術に絶対的な自信を持っていた時代の象徴です。物理的には、盤が厚く、ずっしりとした手応えがある「パンケーキプレス」が多く見られます。
ED2 (1965-1968): 著作権表記の変更
ラベルの文字が “MADE IN ENGLAND BY” に変わります。これは著作権管理の規定変更に伴うもので、音質的にはED1と遜色ないと言われることが多いエディションです。まだ「溝」が存在するのが特徴です。
ED3 (1968-1970): プレスマシンの更新
1968年、DECCAは工場のプレスマシンを更新しました。新しいマシンはラベル面に溝を作らない構造だったため、この時期から「溝なし(Flat)」のワイドバンドが登場します。これがED3です。
ED4 (1970-): コストダウンと近代化
1970年、ラベルデザインは大幅に簡略化され、銀色の帯が細い「Narrow Band」へと移行しました。これ以降、盤自体も薄くなり、製造コストが抑えられるようになります。具体的には、SXL 6448を境に、初版であってもNarrow Bandへと一気に移行します。この番号以降はワイドバンドを探す必要はありません。
| エディション | 帯の幅 | 10時方向の文字 | 溝(Groove) | 製造時期 | 市場価値 |
|---|---|---|---|---|---|
| ED1 | Wide | ORIGINAL RECORDING | あり | 1958-65 | 極めて高い |
| ED2 | Wide | MADE IN ENGLAND | あり | 1965-68 | 高い |
| ED3 | Wide | MADE IN ENGLAND | なし | 1968-70 | 中程度 |
| ED4 | Narrow | MADE IN ENGLAND | なし | 1970- | 比較的安価 |
鑑定を補完する「外装とマトリックス」の補助線
ラベルの鑑定に自信が持てたら、さらに2つの「補助線」を引くことで、鑑定精度を100%に近づけることができます。
- ブルーバック・ジャケット (Blueback Jacket)
SXLシリーズの初期盤(特にSXL 2000番台)の多くは、ジャケットの裏面が青い枠で縁取られた「ブルーバック」仕様になっています。これは初版であることを示す強力な付随証拠となります。ただし、ジャケットだけが初版で中身が再発という「入れ替え」のリスクもあるため、必ずラベル鑑定とセットで行ってください。 - パンケーキプレスの「外溝」
ED1やED2の中には、ラベルのさらに外側、盤面の導入溝付近にまで段差がある「パンケーキプレス」と呼ばれる厚盤が存在します。これは初期の油圧式プレスマシン特有の跡であり、エンジニアの間では「最も音が厚い」と珍重される物理的特徴です。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 最終的な確証が欲しいときは、盤面の送り溝(デッドワックス)に刻印された「マトリックス番号」を確認してください。
なぜなら、ラベルがED2であっても、マトリックス番号の末尾が「1E」や「2E」であれば、それは初版と同じスタンパー(金型)でプレスされたことを意味するからです。物理的な「型」の履歴を追うことこそ、エンジニア的鑑定の極致と言えます。
まとめ:納得の1枚を手に入れるために
DECCA SXLの鑑定は、一見複雑に見えますが、「帯の幅」「文字」「溝」という3つの物理的証拠に集中すれば、誰でも店頭で即座に判断を下すことができます。
- Wide Band + “Original Recording” + 溝 = ED1(至高の初版)
- Narrow Band = ED4(1970年以降の再発)
このシンプルな法則を頭に入れておくだけで、レコード収集は「不安な投資」から「確信に満ちた探究」へと変わるはずです。次に中古レコード店へ行く際は、ぜひチェックリストをスマホに保存して、棚の前に立ってみてください。根拠を持って選び抜いた1枚がスピーカーから音を奏でる時、その感動は格別なものになるでしょう。
参考文献
- Decca Stereo Label Guide – London Jazz Collector
- Classical Record Price Guide – Spiral Classics
- Discogs Database (DECCA SXL Series) – Discogs.com


コメント